すぐそばにあって、でも知らないコト
身近だけど知らない、そんな世界は知ろうとすれば手の届く距離に広がっている
表の世界のみでしか生きていない人たちには知る由もないけれど
今日は、アイドルの誕生日イベントに行ってきた。
誰でも知っている駅の、誰も知らないお店。
アイドルイベントは往々にしてそんな場所でひっそりと行われる。
イベントの3日前、コンビニでチケットを購入した。
アイドルのブログの案内通り、番号を入力し、購入券を店員に手渡す。
……少し恥ずかしい。
イベント当日
そんな恥ずかしい思をして買ったチケットを、大事に財布の深いところにしまい、イベント会場の最寄り駅へと向かう。
時間は19:00過ぎ。
夏ではあるが、すでに空は薄暗くなっている。
日本の”日の入”は早いのだ。
会場の地図を見ると、行ったこともないような道の先にあるようだ。
図らずとも知らない場所へと連れ去られるようである。
怪しい夜道を歩き続けて10分は経っただろうか、ようやく大通りに出る。
ツンと鼻につく匂いとともに古びたお店が目の前に現れた。
少し、電波が悪くなったような気がした。
イベント10分前に会場に到着。
しかし、すぐには入らなかった。いや、入れなかったのが正しい。
この手のイベントには少なからずの偏見があり、いわゆる「新規」ファンというのは歓迎されないのである。
開始5分になるまで、付近をうろつき、気持ちを落ち着かせる。
意を決してバッと中にはいる。
良かった。ちょうど良いところに空席が1つある。
周りに気づかれないようサッと腰を下ろした。
顔を上げ、周りを見渡すと、外から覗いた時よりは人数が少ない。
それなりに知名度があるアイドルであるが(私の友人に知っている人は1人もいなかったが……)案外、参加者は少ないようである。
人数の少なさと、周りの目を気にしなくて良いような席を確保したことによって
少しばかり気持ちに余裕が生まれた。
ついに開演である。
アイドルの登場―――
思いのほか距離が、近い。彼女が喋りだすと、ファンたちは一気に声に引き込まれる。
軽快なトークとはこういうものか。
ラジオ担当しているというだけあって、些細なところから
話を広げていく。方言をうまく交えての軽快なトーク。
ファンたちも徐々に緊張がほぐれ、
アイドルとの会話も増えていく。
この距離感こそがファンミーティングなのだろう。
本日の企画の前半は、アイドルの人生をチャートを使いながら振り返るものであった。
出生から、現在に至るまで。節目節目のストーリーを赤裸々に語っていく。
「年齢はサバ読んでないですよ笑」とぶっちゃけトークをすることで、
嘘偽りのないピュアイメージを作っていくのもアイドルの仕事である。
本音と建て前は80:20といったところか。
ファンの質問に次々と答えていく。
人生の振り返りをする中で、徐々に熱がこもっていく。
「頑張ったことがカタチになると嬉しい」
芸能界に足を踏み入れるも、鳴かず飛ばずだった期間が長かった
カノジョの本音を覗かせる。一度は挫折をし、やめようかとまで考えたがそれでも継続することで
こうして陽の目を見ることになった彼女と自分を重ね合わせ、なんだか元気をもらえたような気がした。
後半
休憩が明け、ファンのアンケートをもとにしたトークが始まる。
列の前方には、昔から彼女を追いかけていた、いわゆる<古参>が
並ぶ。彼女とファンはすでに面識もあり、目には見えない絆のようなものを感じた。
アイドルイベントだけあって、会場の発言権は、すなわち(ファンの)歴史によって決定されてしまう。自然に、彼女の視線も昔からのファンたちを向き、<新規>とは温度差が生まれる。それでも、ファンの彼女を見る目は暖かい。
見ているだけで幸せなのだから。
そしてついにイベントは終わりに近づく。
最後は、2ショットチェキとサイン会。1番彼女と近づけるファン待望の瞬間である。
2ショットを撮影するため、列をなして並ぶ。
前から3人目ぐらいになると、彼女はもうすぐそこ。鼓動が早くなっていく。
そしてその時がくる。
撮影は肩と肩が軽く触れあるような距離感で行われる。
やはり、写真で見るのと、生でみるのは全く違う。
こんなに華奢なのか、こんなにかわいいのか、こんなに近いのかと…
最後に、サインと軽い会話を楽しみイベントは終了した。
チェキは良い。
思い出に残るからだ。こんなに良いものはない。
宝物をそっと携帯にしまい、帰路につくのだった。